25年前に渡英し、薬事翻訳業の傍らTullis Russell Coatersに勤務するガードナー・恵子が、消費者の視点からイギリスにおけるラベルの使用例と包装について、3回にわたり報告する。第1回は、食料品売り場の動向を紹介する。
私が住んでいるのは、ロンドンに次ぐイギリス第二の都市マンチェスターから、25kmほど南にある人口約5万人の田舎町だ。普段の買い物は、テスコやマークスアンドスペンサー(M&S)、セインズベリーズといった全国チェーンの店で、週に1、2回まとめ買いする。
テスコはイギリス最大手の小売りで、ハイパーマーケット、スーパーマーケット、コンビニエンスストアを世界各国で展開。M&Sは、プライベートブランドを衣料品から食品、家庭用品までそろえる小売りだ。これらの店は全国どこにでもあり市民に広く愛用されているが、テスコ、セインズベリーズ、M&Sの順でやや高めというイメージがある。価格も品ぞろえも店内ディスプレーも中央管理されており、全国どこでも同じといってよい。それにより小売りはブランドイメージを保ち、消費者は安心感を得る。
どのスーパーでも「1つおまけ(Buy one get one free)」 、「お得な食事の組み合わせ(Meal Deal)」、「組み合わせ自由 3品で6ポンド(Any 3 for £6)」などといった、各種組み合わせによる安売りキャンペーンを常に行っている。
対象となる製品が分かるようにキャンペーン製品には赤い紙ラベルが貼ってあるが、これはすべて中央工場で貼られる。
【種類豊富なレディーミール】
その良い例が、要冷蔵のレディーミール(加工済み食品)だ。これは大変人気があり、グルメ、節約、ダイエット、各国料理等、どの小売りも自社ブランドをそろえ、味も年々改善されている。包装形態は、電子レンジやオーブン加熱が可能なPETやアルミなどのトレーへ、主に2人分をセット。フィルムでトレーを密封し、それを覆うスリーブ箱かラベルに、調理例イメージやブランド名、賞味期限、調理法、原材料栄養表示、バーコードなどが所狭しと印刷してある。
日本であまり見かけない商品に要冷蔵スープがあり、PP容器にラベルが貼ってあるか、紙カートンに入っているものが多い。「buy one, get one 1/2 price」というのは、2つを組み合わせて買うと、安いほうが半額になるということを表している。ラベルの右手下には総カロリー、脂肪分、糖類、たんぱく質、塩分が1日摂取量の何割か等の栄養情報が一目で分かるように、赤、黄、青の信号の色をモチーフに表示。加工食品には、このような細かい商品情報が分かりやすく表示されている。
【果物にはラベルを直接貼付】

総じて、商品の組み合わせによって、値引きの方法が異なるため、消費者にとっては組み合わせによる値引き総額が分かりづらく、組み合わせ方を間違えて悔しい思いをすることも多い。けちな私は、赤いラベルに書いてある値引きの方法に注目しながら、組み合わせを間違えないように購入している。欲しいものが1つしかない時は、その商品を敬遠してしまうこともある。

生鮮肉類は、トレーに密封してガス置換した包装かシュリンクラップが多く、いずれも商品情報とバーコードが印刷されたラベルが貼られている。クリスマス前には、七面鳥を丸ごと1匹万引する人もいるようで、高額品にはRFIDラベルが採用されることもある。
冷蔵商品の包装やラベルには紙系粘着紙が多く使われている。その背景には、販売環境の絶対湿度が低めで結露がさほど問題とならないこともあるのだろう。
インストアベーカリーのパンや焼き立てローストチキンなどは、包装の上からバーコードとバリアブルデータのラベルが貼られるが、サーマルラベルが変色して読み取りがうまくいかないこともたまにある。貯蔵期間が迫った製品は値下げされるが、新価格とバーコードを手持ち端末で印刷して貼る作業は、各店内で行われている。
高級感やおいしさを訴求したい食品・飲料のラベルや包装には、紙あるいは紙に見える素材が多く使われるようだ。
イギリスでは、このような商品へのフィルム系ラベルには、安いイメージを持つ人が少なくない。紙には、少量生産、オーガニック、手作りといったイメージがあるからだろうか。このような印象はイギリスで長く生活する中で、経験や環境などにより培われる感覚だと思う。
次回はクリスマス前の街の様子を見てみたい。 【ラベル新聞2012年11月15日号掲載】
