▼全国744の自治体が消滅の危機に瀕している。それも遠い未来の話ではなく、今後25年以内に起きるとされる――。民間の有識者で組織する人口戦略会議は先月、2050年までに20代から30代の女性が半減して最終的に自治体消滅の可能性を報告した。同数値は現在の国内自治体の4割強にあたる
▼その時印刷産業は。生産年齢人口が50年時点で5000万人を切り、人手不足や後継者不足は想像の域を超える。懸念はほかにインキや紙などの価格も。仮に現在の製造量を10で表すと、メーカーは10作るから今の10の販売価格が成立する。それが5の製造量になれば価格も5…とはいかず当然割高に。その先には市場縮小から事業撤退の判断も
▼先月、ある団体が都内のラベル印刷会社を視察した。写メもOK全部見てくれと寛大な経営者は代わりに「“なぜ“の視点を持ち見学し、最後に沢山質問して」と要求。一番儲かる仕事にデジタル機の勝ち筋、社員の掌握術と1の質問を2、3にして応じる。「このまま衰退する訳にはいかない、ともに需要を創り出そう」。手の内をすべて公開した上で同業者を鼓舞する
▼産業縮小の深刻な弊害、それは「ライバルが消えること」でもある。負けるものかと自らを奮い立たせ、ああなりたいと憧憬と嫉妬を覚えるライバルが消える。競争が失われ、イノベーションが途絶える
▼前出の「報告」、実は消滅可能性自治体は10年前の統計から152減っている。少子化基調は変わらず楽観視できない中でも、地方自治体は地方創生の変革に挑む。印刷産業を遺し、地域経済を支えるにも先ずは社員を守ること。そのために需要を創り出すことが経営者の使命だと同氏。変革にはイノベーションが不可欠、ならばとライバル役を引き受け全開放した。今必要なのは競争より共闘。消えてなるものかという経営者の覚悟を知る。
(2024年5月1日号掲載)