▼相手の立場になってよく考えなさい――。親に教師に、幼少時から何度言われ続けてきたことか。自分の視点や価値観を一旦脇に置き、相手の視点・感情・状況を想像し理解しようとする姿勢を持て。そう容易にできる芸当ではないから、何度も言われ続けるのだろう。自分本位の理解を超えて、他者の内面に寄り添おうとする知的・感情的な試みを今、実践する術がある
▼先日いわゆる「スキマバイト」を展開する企業の話を聞く機会を得た。驚くことに「スキマバイトの社員が、スキマバイトをしている」のだという。稼ぎが足りないのか、暇なのか。そうではなく、目的は取引先の顧客の立場に立つためで、相手の視座を得るため。こうしてより誠実で実践的な提案が叶うと話す
▼すでにスキマバイトを活用中のラベル印刷会社の経営者は、自ら飛び出していきたいと熱弁。産業スパイの類は別として、現実的に納品先や発注先の立場を知る合法的な機会が存在する。スポットワーカー派遣の会社と表層的に捉えていてはもったいないと説く
▼”人がいる”ことを前提としたオペレーションではいつか回らなくなる日がくる。本号中面で自動認識技術の団体トップがこう予言する。さらに直上、当業界の最大手は自動化工場を大規模投資で構築した。2040年には1100万人の労働供給が不足するとの試算があり、本当に工場から人が居なくなる日が到来しそう
▼前述の経営者は、リピートで来社してくれるスポットワーカーに社員登用を何度も持ちかけるも、誰一人首肯しないと漏らす。まだうちに魅力が足りないという証左で「そこを改善すれば組織はもっとよくなる」と、いたって前向きだ。時には顧客に、時には従業員に。ディープテックやDXに頼る前にできる、相手の立場を知るための能動的で実践的な行為が、自社の未来の雇用を呼ぶ。
(2025年6月1日号掲載)