▼球界などで用いられる「記録よりも記憶に残る――」という表現。「WBC 2023」で躍進を続ける日本代表の好プレーは印象に残り、死球をめぐる盤外のやり取りも記憶に新しい。数字がすべてではないことは承知の上だが、日本の最多優勝回数を更新する記録にも期待したいというのは欲が張りすぎか
▼華々しい話題に湧く一方、特殊詐欺や強盗など物騒な事件も世間を騒がせる。02年をピークに刑法犯認知件数は減少傾向にあったが、警察庁の犯罪情勢統計(暫定値)によると、22年の全国刑法犯認知件数は20年ぶりに前年を上回る見通し。治安の悪化を懸念する世論と実際のデータが合致する形となった
▼19年に出版され話題となった書籍『ファクトフルネス』では、極度の貧困に暮らす人々は世界全体で減少傾向にあるなどのデータを示した。ネガティブなニュースは記憶に残りやすいが、ものごとが徐々に改善されている状態は見えにくいとし、事実や記録に基づいたものの見方・考え方を啓発している
▼ラベル業界の風向きをみてみると、粘着紙出荷量はコロナ禍の直近で減少傾向。事実、取材を通じて逆境にあえぐラベル業界人の声を得た。一方、デジタル印刷機などでは旺盛な設備投資の実績も記録している。経済活動の再開に備え社内体制の見直しを図るなど、悪条件の中からも将来を見据えた新芽を見いだそうとする取り組みが確認された
▼多角的に記録を集積・利活用して改善活動へ生かす事例はさまざまな分野でみられる。自動運転をはじめ、監視カメラとAIを組み合わせ、被害を未然に防ぐ防犯事例も。ものづくり産業もしかりで、機械稼働率やロス率などの記録を基に改善へ臨む。2ストライクからでもヒットにつなげられるかは打者次第。23年の粘着紙出荷量は前年比増を見込む。実感が伴い、記憶に残る回復の年となるか。
(2023年3月15日号掲載)