▼先日都内のホテルを利用した。チェックインの際、明日近くのキャンパスで入試がある都合で夕方以降は館内が少し混み合うかも、とフロント係。新型コロナウイルスの影響で登校できなかった2020年に2年生、文教環境も激変した昨年3年生となり、これから大きな試練に挑む世代だ
▼朝食会場にも街中にも、緊張の面持ちの若者の顔が。時代に翻弄され不安はいかばかりかと大人も胸が苦しくなる。タブレットを“めくる”姿はなかったが、ぶ厚い「赤本」も電子書籍と化すだろうか。などと考えながら最高学府の周辺を歩くと、数は減ったろうが静かにたたずむ古本屋の姿を認める
▼総務省が先日発表した21年家計調査によると、2人以上の世帯の支出金額「雑誌」「書籍」「他の印刷物」は対前年でプラスを記録。雑誌はこれまでの減少基調から下げ止まり、書籍は19年から右肩上がりを記録中。足元の結果はコロナ禍で外出機会が減り、在宅時間を読書に充てる動きの継続が一因だろう
▼とはいえ紙媒体の衰退、電子化に歯止めがかかったとは言い切れまい。支出先として大きく減った「飲酒」「宿泊」等のサービス消費が回復すると、潮目もまた変わろう。それでも巣ごもりでテレビにPC、スマホとデジタル端末に間断なく触れ続ける“デジタル疲れ”から、距離を置いて本を手に取りたくなった背景もありそうだ
▼目下本紙は21年度上期の景況感アンケートの調査中だが、客筋の業種・業態の好不調次第で回答は悲喜こもごも。日々がコロナ禍を生き抜く試験中なのは、大人もきっと同じ。街角の古本屋も、淹れたてのコーヒーと名物のカレーで気の置けない仲間との時間を与えてくれる喫茶店も。もちろん印刷会社も、時代の1ページからまだ“落丁”する訳にはいかない。暮らしや文化を護ってきたわれわれ大人にも、新常態を生き抜く赤本が欲しい。
(2022年2月15日号掲載)