▼10年前のあの日、戦後最大の災厄とされる東日本大震災の惨状はわれわれ日本人、そしてラベル業界人の心に深く刻まれている。本紙は当時、2011年3月15日号の創刊1,000号発刊に向けて最後の編集作業に追われていたが、もはや祝い事どころでなく、紙面構成をすべて見直し、現地の被害状況や業界人の安否確認を行った
▼震災から1カ月後、記者として現地へ向うため、東北協組専務理事(当時)の池原賢吾氏に連絡したとき「組合員が復興を目指して立ち上がる姿を記事にしてほしい」との電話口の声に安堵し、また胸がじんとなった。事実、現地では東北のラベル業界人が未来に向かって歩み始めていた。忘れがたき当時の思い出
▼50年ほど前、ラベル印刷会社の兄弟が画期的な製造技術を開発し、特許を取得した。印刷後のラベル基材表面に透明PPフィルムを貼り合わせる「クリスタルラベル」、のちのラミネート加工である。当時のラベル印刷はUVインキが採用されておらず、インキ乾燥に時間を要していた。クリスタルラベルは印刷直後にフィルムを貼り合わせるため、乾燥工程が省略できる
▼同特許は1981年、全日シール連に譲渡され、ラベル業界の発展に貢献。ラミネート加工はやがてラベルの表面保護や訴求効果のみならず、コロナ禍の現在にあって抗ウイルスなどの機能を付加するまでに至った。技術開発者の弟で、のちに正札協組理事長を務めた千ヶ崎政夫氏、死去。心からご冥福申し上げる
▼古代ローマの政治家で弁論家のキケロは「記憶はあらゆる物事の宝」と語った。ラベル業界にとって50年前の技術開発、40年前の業績、10年前の大震災、そして厳しい事業活動に直面する現在のコロナ禍…。これらの記憶が、未来のラベル業界に立ち塞がる障壁を取り除き、さらなる発展に寄与する宝物となることを願ってやまない。
(2021年3月15日号掲載)