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ハイ・アングル(2020年10月1日号掲載)

いつかの夕方ニュースの一幕。老婦人がビン詰めのジャムを1瓶購入していた。もう一つ買うと割引になってお買い得ですよ、小瓶は割高なので中サイズをお買い求めになっては。店主がおすすめしたが、ご婦人は1つだけでいいのだという。一人暮らしなのか、というとそうではない。「瓶だと重たいから、1つしか持てなくて」

 ▼ある化粧品メーカーのコールセンター担当者との話。容器のふたが開けづらい、という年配女性からの声が少なくないそう。こうした愛用者の要望から、ボタンを押せば天面が開栓する容器や、押せば乳液が出るようポンプ式の容器を一部採用しはじめているという。数百グラムの差異もフタを開けるための手首をひねる行為も、成人男性の愚生はそこに潜む社会変化の兆しに気づかない
 ▼先の敬老の日を前に総務省が発表した調査報告によると、わが国の65歳以上の高齢者は3,617万人と過去最多を更新。総人口に占める割合では28.7%で、言うにおよばず世界に類を見ない超高齢社会を独走中だ。25年には30%台に達すると目され、先述の声がもはや少数派でなくなるのも時間の問題だ
 ▼(公社)日本パッケージデザイン協会主催の「日本パッケージデザイン大賞2021」がこのほど決定。最高位に「サントリー緑茶 伊右衛門600mlペット ラベルレス」が輝いた。ラベルを脱ぐことで緑茶本来の濁りを全面に引き出し、ボトルに付された刻印と首かけ式ラベルという最小限の佇まいが目を引く
 ▼気鋭のデザイナーがパッケージデザインを競い合うコンペにあって、ラベルをまとわない商品を大賞に選出した事実に確かな時代の潮目を見る。足元の脱プラ廃フィルム基調への解答、それも大いにあろう。商品が役目を終える廃棄の場面も見つめ、高齢者を置き去りにしないという社会を見つめるデザインの温かさ、優しさを感じてしまう。
(2020年10月1日号掲載)
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