▼「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」(フリードリヒ・ニーチェ)。例えばラベルを擬人化してみたら、と空想してみる
▼われわれは「原料は何か」「いつ作られたのか」と商品を手に取り、じっと〝そちら〟を見つめる。翻って、ラベルには覗き込む”こちら”がどう映っているか。消費者は今、どんな表情をしているのだろう
▼え、また値上がりしている。前はもっと安かったのに、気軽に買える存在ではなくなった。いまだ終わりの見えない値上げ措置。ラベルに映るのは、驚きの表情や眉間にしわの入った顔、少しでも安いものはないかとハンターのような鋭い眼光。きっと、余裕のない消費者の表情を見ている
▼次なるは、奇異の目に真剣な視線、へぇ大したものだと目をしばたかせ覗き込む顔。そんなわれわれを見つめるラベル――はそこに居ない。新たな表示施策「ラベルレス印字」だ。PETボトルにレーザーマーキングで内容表示を描くラベルレス印字の読みやすさを調査したところ、3割が「判読性あり」と評したという
▼レーザー印字で環境配慮はできても、消費者のわかりやすさを毀損してはいないか。確たる指針もなく踏み込みきれなかった部分に今回、調査結果とエビデンスが示された。環境への配慮と読みやすさを両立する未来に向け、ガイドラインが間もなく策定。表示ラベルにも関わるブランドオーナーの挑戦が始まる
▼「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」。哲学者、ニーチェはこうも説く。過去が今を形成する。同様に、どうありたい・どう生きるかという意思と決意が現在の行動を規定し、未来を創っていく。表示に新たな進化が迫る今、過去に何を学び、未来をどう思い描くのか。今日も店頭のさまざまな商品ラベルを通じて、未来の深淵を覗くわれわれの表情は、果たして。
(2025年9月1日号掲載)