先月、印刷産業青年連絡協議会の工場見学会に同行した。手帳製本と紙工品の抜き加工を行う両生産現場で、われわれの分野にはない全長を誇る丁合機に目を奪われる。長い搬送上に無数の「駒」が並び、規則正しいリズムで手帳の中ページや50音かるたを次々と運んでいく。見る側は勝手なもので、大きな機械の鼓動とシンクロするアームのダイナミズムに心が踊る▼経営者でも秘書でも世界を股にかけるビジネスマンでも、バッグの中から手帳が5も10も出てはこない。近年はスマホが多機能型手帳として取って代わる時代だ。絶対的な消費上限数があるのはかるたも同様、せいぜい一家に一つ。これほど真剣に、これほど手をかけ技術と誇りで生み出されていく製品を目の当たりにして、これ売れないと嘘だ、とファインダー越しに唇を噛む▼研磨に溶接、板金加工。手帳やかるたよりもっと厳しい環境下にある産業もあろう。都は高い技術を持つ中小企業とデザイン力・企画力・課題解決力に長けたデザイナーをマッチングさせ、新規ビジネスの創出を狙う「東京ビジネスデザインアワード」を主宰する。デザイナーにとってはおよそ初めて知る業種に初めて見る技術。先入観なく目の前の技術を未来の資源と捉え、可能性を具現化する。かくしてガラスの精密加工はペットを偲ぶ祈りの道具に、板金加工は積み木状のユニット家具に。新たな使命を与えられた技術は再び輝き出す▼「使わせ方」に「必要とさせ方」とは。印刷の未来と自社技術の可能性を信じ、運命の出会いを求めて汗をかき歩みを止めない冒頭の若手印刷人ら。『いつの日か出会う災いは、おろそかにしたある時間の報い』。今日8月15日に生まれたナポレオン1世はそんな言葉を残す。少なくとも気温35度を超える休日でも学ぶことを惜しまない若者らには無縁であると信じたい。
|